「頭痛患者の広範囲疼痛過敏性の診断と臨床的意義」に関する研究結果
【背景と目的】
片頭痛では頭痛時にかぎらず頭痛の合間にも体全体に痛みに対する過敏性を示すことが知られています。片頭痛は、圧刺激に対して体の広範囲に過剰な痛み反応「広範囲圧疼痛過敏性」を示す線維筋痛症という病気に代表される中枢過敏症候群(中枢神経が過敏な病態)の一つと考えられています。この研究は、1)片頭痛患者に線維筋痛症のような「広範囲圧疼痛過敏性」を伴う片頭痛のグループが存在するか、2)そのようなグループが存在する場合、その発生率はどの位であり、片頭痛時にみられる皮膚異痛症(アロデニア:通常は痛くないはずの刺激を痛いと感じる状態)との違いは何かを検討するためにおこないました。
【方法】
2015年3月から2016年9月の期間中に受診した合計176人の連続した片頭痛患者と、132人の頭痛のない正常人で圧刺激に対する反応を調査しました。親指の爪の色が白くなる程度の圧力(約4kg)で線維筋痛症の診断で用いられる体の18箇所を押し、各部位に圧痛があるかを調べました。顔をしかめる程度に痛がる場合を圧痛ありと判定しました。正常人の95%は7箇所以上の陽性圧痛点を示さないことから、7箇所以上の陽性圧痛点を示す場合は「広範囲圧疼痛過敏性」を有すると判定しました。
【結果】
176人の被験者のうち、頭痛の合間の「広範囲圧疼痛過敏性」を有する片頭痛は74例(42%)に、頭痛時の皮膚異痛症(アロデニア)は115例(65.3%)に観察されました。頭痛の合間の「広範囲圧痛覚過敏性」を有する片頭痛は、女性、若年発症、高頻度の頭痛、重度頭痛、皮膚異痛症およびうつ状態を示すものに多く見られ、特に、女性、高頻度の頭痛発作および若年発症例に強く関係することが判りました。
【結論】
頭痛の合間の「広範囲圧疼痛過敏性」を有する片頭痛は一般的であり(42%)、女性、高頻度頭痛例および若年発症例に多く見られましたが、片頭痛の罹病期間とは関連していませんでした。頭痛の合間の「広範囲圧疼痛過敏性」の存在は、遺伝的な片頭痛になりやすい体質の指標であると考えられ、触診による「広範囲圧疼痛過敏性」の判定は、片頭痛の病態に応じた適切な治療に繋がる有用な診断指標となると考えています。
【まとめ】
1)開業医でも特別な道具を用いない触診による方法で、「広範囲圧疼痛過敏性」の存在が診断出来る。
2)頭痛の合間の「広範囲圧疼痛過敏性」を有する片頭痛グループは約40%存在する。
3)そのグループは若年で発症しやすく、頭痛頻度が多くなる傾向を体質的に有する可能性がある。
4)「広範囲圧疼痛過敏性」に関連する脳の部位は大脳よりも脳幹部に想定される。
5)その脳の体質を改善する方法が片頭痛の適切な治療につながる可能性があるという内容です。