2019年4月から「降圧目標値」が厳しくなりました。
2017年にアメリカの高血圧の基準値が変更され、130/80mmHg以上は高血圧ということになりました。
これを受けて、今年4月に日本高血圧学会は高血圧治療ガイドライン(指針)2019を発表し、「降圧目標値」を変更しました。日本の高血圧の診断基準は140/90mmHgのままですが、降圧目標が今までよりも厳しくなりました。合併症(糖尿病、腎臓病など)がない場合の降圧目標が、75歳未満は140/90mmHgから130/80mmHgに、75歳以上は150/90mmHgから140/90mmHgに引き下げられました。さらに、今まで「正常高値血圧」と呼び「降圧目標」でもあった130~139/85~89は「高値血圧」と呼ばれるようになりました。「正常」を抜くことによって「安心するな、改善の余地がある」ということを表現しています。もう少し詳しく新しい「降圧目標値」をみてみましょう。目標値が、前々回、前回のもの(ガイドライン2009と2014)からどのように変わったのか見てみましょう。血圧値は診察室の血圧です。家庭血圧では上の血圧、下の血圧ともに5ずつ低い値です。
降圧目標 |
2009指針(前々回) |
2014指針(前回) |
2019指針(今回) |
65歳未満 |
130/85未満 |
140/90未満 |
130/80未満 (家庭125/75未満) |
65歳から75歳未満 |
140/90未満 |
140/90未満 |
130/80未満 (家庭125/75未満) |
75歳以上 |
140/90未満 |
150/90未満 |
140/90未満 (家庭130/80未満) |
糖尿病・腎臓病患者 |
130/80未満 |
130/80未満 |
130/80未満 (家庭125/75未満) |
虚血性心疾患患者 |
130/80未満 |
140/90未満 |
130/80未満 (家庭125/75未満) |
脳血管障害患者 |
140/90未満 |
140/90未満 |
130/80未満 (家庭125/75未満) |
2009年に一旦緩くなった目標値は2014指針でかなり厳しい目標に変更されたため、一旦向上した目標達成率が低下することが見込まれます。当院では、2014指針下で71.6%であった2017年7月の目標到達率が、2019指針に沿って計算すると48%に低下してしまいます。今まで当院で「よく出来ました」と評価されていた患者様のうち約1/3の方が「もっと頑張りましょう」という評価になってしまいます。
これはどのようにとらえれば良いのでしょうか?
ガイドライン製作委員会によると、降圧目標を変更した理由は、「厳格治療と通常治療を比較すると、厳格な降圧により心血管イベント(脳卒中、心臓病)を抑制することができる」からとしています。「収縮期血圧を10mmHgあるいは拡張期血圧を5mmHg減らすことで、脳心血管病を20%減らすことができる」とも述べています。「正常血圧」とされる120/80未満であれば脳卒中、心臓病になりにくいという科学的根拠に基づくものです。
どのように対処すれば良いのでしょうか?
従来の目標値である140/90mmHg未満(<75歳)あるいは150/90未満(≧75歳)が達成されていない場合は、生活習慣の改善をベースに降圧剤も併用し、先ずは「高血圧」ではない130〜139/85〜89の「高値血圧」レベルにまで降圧します。その後はなるべく薬に頼らず、生活習慣の修正をさらに強化して(もっと頑張って)130/80mmHg未満を目指すようにします。2014指針で「よく出来ました」の方も同様です。
加えて、今まで早朝血圧のみ測定していた方は就寝前も測定して、朝との平均値で評価しましょう。
就寝前血圧は朝より低いことが多いので平均では目標に到達している可能性があります。
家庭内血圧測定の重要性について
今回の指針でも「外来血圧より家庭血圧を重視する」方針は変わっていません。生活習慣病の厳密な改善だけで血圧が20mmHg下がるといわれています。これは降圧薬に匹敵します。血圧日記をつけて自分の血圧をよく知って自ら積極的に血圧のコントロールに関わりましょう。「予防に勝る治療なし」。これからも脳卒中、心臓病、腎臓病の大きな危険因子である高血圧に対してより多くの皆様が降圧目標を達成できるよう主治医と皆様の二人三脚で「正常高値血圧である130/80未満」=「よく出来ました」を目指しましょう。